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2023/10/02

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
原田 芽生
ハラダメイ
NIR-II 蛍光色素・セラノスティクス・量子化学計算
ホームページ http://photo-org-chem.agu.ac.jp
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 環境・バイオサイエンス 愛知学院大学 薬学部 PDF
研究題名 セラノスティクスを指向した第二近赤外色素の創製と分子機能開拓

訪問記

最終更新日 : 2023/10/02

訪問日:2023/08/30
訪問時の所属機関 愛知学院大学 薬学部 訪問時の役職 助教

原田先生の研究室に訪問して(図1)、助成研究などについてお伺いしました。

助成研究の目的について教えてください
研究の目的は、近赤外光を使った生体の診断や治療のための分子を開発するということです。
生体に光を照射すると生体組織や水分子によって光は吸収や散乱を受けますが、近赤外光はこの影響が比較的少ない生体のより深部まで届く光です。近年、近赤外光を使うことで生体を傷つけることなく体内を画像化し、同時に治療を行うセラノスティクス技術が発展してきており、こうした技術を支える近赤外光を吸収し、診断・治療機能を発現する近赤外色素の開発が強く求められています。特に、波長が約1000-1400 nmのNIR-Ⅱと呼ばれる領域の近赤外光は吸収・散乱の影響が特に少ないため、この領域で機能する色素の創製が重要です。このような色素には、生体内に投与されたときに近赤外光を吸収して光や超音波、あるいは活性酸素などを発生する機能に加え、分子そのものが生体に害を及ぼさないよう、溶解性や安定性などの基礎的な物性も必要となります。しかし、NIR-Ⅱ 領域に強い吸収を持ち、同時に優れた診断・治療機能や基礎物性を併せ持つ色素の開発は極めて困難です。そこで本研究では未知の色素の基礎物性や光物性をシミュレーションできる「量子化学計算」を用い、既存の分子骨格を基にしてこうした物性を併せ持つ新たな近赤外色素を戦略的・効率的に開発することを目的としています。具体的には、当研究室で開発した分子をベースとして求める機能を併せもつ色素を量子化学計算を用いて設計し、合成・機能評価を行う予定です。

助成研究で対象にしているのはどんな分子ですか
当研究室で開発したCCyやBXという分子があります(図1)。いずれの分子も既存の分子から1回の化学反応だけで簡単に合成できて、長波長領域に吸収を持つということでこの二つを起点として開発を進めていきます。
まずCCyをベースに検討しているのですが、吸収波長がわずかに近赤外領域より短いので更に長波長化するために分子の構造を変える必要があります。量子化学計算によって分子修飾が可能な位置にさまざまな置換基を入れた構造を網羅的に計算し、近赤外側に大きな吸収を持つ分子構造を設計して、現在その合成を進めているところです。

現在、東京大学の博士課程とこちらの助教との二刀流だと思いますが、どの様な経緯だったのですか
修士課程在籍時に、現在の研究室の教授である神野先生と共同研究をさせていただいており、研究を進めていく中で「アカデミア志望です」というお話をする機会がありました。その後博士課程に進学したのち、神野先生の研究室で助教の枠が空いて後任を探しているということで、「良かったらやってみない?」というお話をいただきました。早くから大学教員として研究へ携われることに大きな魅力を感じ、「是非やらせていただきたいです」とお願いし、そこから社会人博士課程に移行して二刀流でやらせていただいています。

薬学部に進まれた理由は?
中学生の頃、世の中の全てのものが原子や分子でできていることを非常に面白く感じ、元素を扱う化学に興味を持ちはじめました。高校では特に炭素と水素と酸素の組み合わせだけで様々な性質をもつ分子を作ることができる有機化学が面白いと感じ、有機化学を学べるような学部に行きたいと考えていました。ただ、物理や生物も好きだったのでどの分野にも関わりがある方向に進みたいと思ったとき、理学部だと化学科とか物理学科に分かれてしまうので、有機化学をしっかり学べて生物や物理とも関わりのある薬学部がいいと思って決めました。

有機化学の中でも「光」を使う研究に取り組みたいと思ったきっかけは?
大学1年の前期に教養課程で「量子化学」を学んだところとても面白かったので、自身で勉強を進めたり、より詳しい講義はないかと探して後期に工学部の「量子化学」の授業を受けました。その先生は発光する錯体を研究されていたので、授業の雑談等々で「光を吸収すると分子はこんな風に変わるよ」など光による反応について教えていただいて「これは面白い。光を当てたら普通の分子にできないこともできるやん!」と感動しました。それが、今につながっているきっかけですね。

今後、進めていきたい研究の方向は?
現在は近赤外光を使っていますが、光に限らずX線、磁場などを利用し、より生体深部の診断・治療が非侵襲的にできるような分子や技術を創っていきたいと思っています。可視光や近赤外光を吸収し、機能を発現するような分子は現在まで盛んに開発されていますが、X線や磁場と相互作用し診断・治療が行えるような分子の開発は発展途上です。こうした技術を創成し、近赤外光では届かないような生体深部でも体外からの診断・治療を行うことが可能になればと考えています。