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2023/07/11

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
安達 眞聡
アダチマサト
静電気応用、太陽光発電、ダスト除去、粉体ハンドリング
ホームページ http://www.elem.me.kyoto-u.ac.jp/index-j.html
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 エネルギー・情報通信 京都大学 大学院工学研究科 PDF
研究題名 振動と組み合わせた太陽光発電パネル用の静電砂塵クリーニングシステム

訪問記

最終更新日 : 2023/07/11

訪問日:2023/06/27
訪問時の所属機関 京都大学 大学院工学研究科 訪問時の役職 助教

安達先生の研究室に訪問して(図1)、研究インタビューをさせていただきました。

助成研究の概要
クリーンなエネルギー源である太陽光発電の設備を、日射量も多く、降雨の少ない砂漠地域で稼働させる際の地域特有の課題として、砂嵐により舞い上がる砂が太陽光発電パネル表面に堆積し、太陽光の入射を妨げて発電量を低下させるという問題がある。そのような問題に対して、静電気力を利用して太陽光発電パネル表面に堆積した砂を自動で除去して発電量を回復させる技術に着目している。この技術は、砂漠のような過酷な環境下で貴重な資源である水によるクリーニングを抑制し、ダスト清掃を実施する人やロボットへの負担を軽減することができる。本研究ではこの技術に振動を組合せた機構について、その除去性能に関する基礎特性を明らかにする。

インタビューの始まりは、宇宙の話
 ドイツ航空宇宙センター(Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt、通称DLR)、ドイツのJAXAのようなところですね、そこで4年ほどポスドクをしていました。また、DLRとは別に欧州宇宙機関(European Space Agency、通称ESA)というヨーロッパの宇宙研究機関があるのですが、そこにも1年くらい所属して研究を行っていました。これらの研究機関では、月の砂のハンドリングに関する研究や宇宙環境下での粉体物理現象について研究を行っていました。
今、世界各国で宇宙の開発競争が始まったと言われており、特に月面滞在を目的とした活動が活発に行われています。そのような中で注目されていることの一つに月の砂(レゴリス)が色々な問題を起こすということがあります。アポロ計画の月面着陸の際に、レゴリスがカメラレンズ表面や宇宙服表面等に付着して、それらの正常な機能を妨げるという問題がありました。水や気体が使用しづらい真空環境である宇宙では地上とは異なる仕組みを用いた砂のクリーニング技術が求められています。そこで私の研究では、このレゴリスをハンドリングする技術として、静電気、磁気、振動といった要素を活用した宇宙用の技術開発に取り組んでいます。

宇宙の技術を地球へ
今回、矢崎科学技術振興記念財団の助成研究に応募したテーマは、このような宇宙でのレゴリスのハンドリング技術を応用した、地球上での静電砂塵クリーニングシステムの開発です。
ガラス基板上に透明の電極を縞状に配置し、ここに位相がずれた高電圧をかけると進行波電界が発生し、帯電した粒子を搬送・除去することができます。機械的に動く部分がなく、静電気のみで粒子を除去する仕組みであり、電流値が非常に小さいので消費電力は非常に少ないです。このシステムの問題としては、本研究でも着目している点なのですが、全ての粒子サイズで綺麗に除去できるわけではないという点です。力学を簡単に考えると、重力と静電気力と付着力が働く際、重力は粒子の体積に比例するのに対し、静電気力は粒子表面で起こる現象なので表面積に比例します。また、付着力については簡単に基板と粒子の接触点で起こると考えます。つまり、大きい粒子ほど重力が強くて除去しづらくなり、小さい粒子ほど付着力が強くて除去しづらくなります。そこで、この除去しづらい粒子をどうやって対処するのかというのが課題になっています。特に小さい粒子の除去は難しく。本研究では振動を加えることで付着力を小さくするということを考えました。予備実験で、先ほどのガラス基板に高電圧を印加しつつ、振動をX:横方向とZ:縦方向の振動を与えるとX方向の振動を与えると良く除去できることが分かりました。基板上の粒子が横方向の振動により物理的に少しずれる、その瞬間に急激に付着力が落ちることにより、除去できているのではないかと考えています。今後は、振動の各種条件が砂の除去性能に及ぼす影響について調査を行っていきます。
静電気力を利用して砂をクリーニングする技術は、太陽光発電パネル以外にも、高層ビルのガラス、自動運転車の車載カメラやセンサー、道路脇のカメラ等にも応用できる可能性があります。


研究の楽しさ
挑戦してうまくいったら嬉しいし、失敗したら次行こう、という考え方で色々な新しいものに挑戦できる環境が好きで、研究はすごく楽しいなと思っていますし、自分に合っているかなと考えています。
宇宙は遠いものと最初は思っていましたが、JAXA、DLR、ESA、NASAといった研究機関の方達と共同研究などで関連ができるようになると、あまり遠いものでもないと思えてきて研究もさらに面白くなっていきました。

学生に伝えたいこと
学生を指導する際、心がけているのは幾つかありますが、一つは、できれば日本にとどまらずに、世界で活躍できる人になって欲しいなということです。海外の研究や生活では様々な貴重な経験をすることができましたし、自身の成長の観点でも重要な機会だったと思っています。自分が指導している学生には国際学会での発表とか、英語での論文執筆とかも経験してほしいと考えています。現時点で完璧にできる必要はないと思いますが、そういう経験があると、就職した後にいざ海外赴任といった時にも自信を持てるようになるかなと思っています。また、卒業後は国内で就職というような流れだけではなく、海外での就職やそれ以外にも世界に目を向けた幅広い選択肢についても検討してほしいと考えています。そのような大きいスケールで活躍できる人材に育ってくれたら嬉しいと思っています。