» 助成金受領者 研究のご紹介 » 研究者の詳細

2024/03/26

Topics研究室訪問記が追記されました。

研究者の詳細

氏名 研究キーワード
内藤 剛大
ナイトウタカヒロ
触媒化学、固体触媒、電極触媒、アンモニア合成、再生可能エネルギー
ホームページ https://www.nagaokalab-catalystsystems-nu.net/
年度 種 別 交付対象時所属機関 研究紹介文 研究成果報告
2022年度 奨励研究助成 エネルギー・情報通信 名古屋大学 未来社会創造機構 PDF PDF
研究題名 電析法によるプロモーター形成を通じた新奇アンモニア合成触媒の開発

訪問記

最終更新日 : 2024/03/26

訪問日:2023/11/01
訪問時の所属機関 名古屋大学 未来社会創造機構 訪問時の役職 特任助教

内藤先生の研究室に訪問して(図1)、助成研究などについてお伺いしました。

本助成研究のねらいは?
 今回申請させていただいた研究は、アンモニア合成の触媒開発に関するものです。
 従来のアンモニア合成法であるハーバーボッシュ法の反応条件は、500℃・100気圧以上という非常に高いエネルギーを必要とする方法なので、より温和な条件のアンモニア合成法が望まれています。Ru(ルテニウム)を触媒として使うと低温での反応が可能なことは分かっているのですが、Ruは非常に高価な金属なためそれを代替できる新たな触媒の開発が昨今盛んになってきています。
 これに関して、私が現在所属している永岡先生の研究室では貴金属を使わない高性能な触媒を開発しています。私はこれまで行ってきた水の電気分解の研究で培った「電気化学」的手法によって、この触媒生成プロセスの再生可能エネルギー親和性と触媒性能を高められるのではないかと考え取り組んでいるところです。

永岡研で開発した触媒とそれを改良するアプローチを教えてください
 永岡研で開発したアンモニア合成触媒は、担体であるマグネシア(MgO)上に主触媒としてコバルト(Co)を載せ、Coの活性を高めるプロモーターとしてバリウム(Ba)がCoの周りを取り巻いた構造になっています(図2)。元々Coの触媒活性はかなり低いのですが、BaがCoを取り巻く特殊な構造となることによってCoの電子状態が変わりRuと競り合える性能が発揮されます。
 この触媒を含めて一般的に触媒を作るには、水溶液や有機溶媒に前駆体となる試薬を溶かして担体上にナノ粒子を析出させ、その後溶媒を飛ばして触媒粒子を焼き固める方法を取ります。この過程で触媒粒子は金属の酸化物や炭酸塩などになってしまうため、より触媒能の高い金属状態に還元するために高温で処理することが重要だとわかってきました。先ほどの永岡研の触媒では700℃程度の処理によりプロモーターであるバリウムの炭酸塩を分解することが高い活性を発現するポイントになっています。
これに対して私が発想したのが電気化学的に金属を析出(電析)させる手法の活用です。一般に電解液中の金属イオンを電気で還元してやれば、低温でも金属や低価数の金属酸化物粒子が析出します。これにより先ほど述べたような高温での還元処理を必要としない触媒表面を形成できる可能性があります。電析で作ると表面の三次元的な構造(モルフォロジー)も従来の方法とは違うものになるはずで、これまでになかった触媒表面が形成できるのではないかと思います。永岡研のCo・Ba・Mgの三元触媒は既にアンモニア合成では実績がありますので、まずはこの組成をモデルとして電気化学的方法の効果を検証するのが今回の助成研究の内容になります。電析法の条件もいろいろなパラメータがあるので、触媒形成のプロセス条件の組み合わせは非常に多岐に渡ります。これらを検討して性能を上げていきます。

大学での研究者の道に進まれた理由は?
 修士課程のときは、エネルギー変換材料の研究に携わりたい気持ちは強かったのですが、研究の場として大学とか企業とかにはこだわっていませんでした。エネルギー変換に関する研究を企業との共同研究でやっていましたので、その縁もあって修了後にはその企業に就職したのですが、自分の期待とは違って全く関係のない部門に配属になってしまいました。研究職ではあったのですが想いと違う分野では満足できず、博士課程として大学に戻りました。そこで取り組んだのが水の電気分解による水素製造の研究で、そこで培った「電気化学」が現在につながっています。

今後、進めていきたい研究の方向性は?
 研究対象は変わっていくと思いますが、私の中では「電気化学」が中心にありますので、それをコアとしていろいろなプロセスを研究していきたいです。今は大学にいますが企業にいた経験も踏まえて、「研究を実用化につなげる」ということを強く意識していますので、「電気化学」という武器でどう実用化に向けてアプローチできるかという考え方を大事にして研究に取り組んでいきたいと思っています。

著作文献紹介
  • High Current Density Oxygen Evolution in Carbonate Buffered Solution Achieved by Active Site Densification and Electrolyte Engineering, T. Nishimoto, T. Shinagawa, T. Naito, K. Harada, M. Yoshida, K. Takanabe, ChemSusChem, 2022, 15, e202201808.
  • Gas Crossover Regulation by Porosity-Controlled Glass Sheet Achieves Pure Hydrogen Production by Buffered Water Electrolysis at Neutral pH, T. Naito, T. Shinagawa, T. Nishimoto, K. Takanabe, ChemSusChem, 2022, 15, e202102294.
  • Water electrolysis in saturated phosphate buffer at neutral pH, T. Naito, T. Shinagawa, T. Nishimoto, K. Takanabe, ChemSusChem, 2020, 13, 5921.